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だめだこりゃ。

2010.02.17 - Unknown
あっという間に三日過ぎてしまった!

ムジュラだったらもう月が落ちてゲームオーバーだよ!(古い)
はい、という訳でカクロイ(凍ノ杜在住中)で二月十四日のお話。
妙にダラッダラと長ったらしくなりました。

落ち?そんなサービス無いよ(お前
  幼馴染――それはまるで、絵になる恋人達



 わしはフラフラと凍ノ杜の外に出た事を少し後悔した。

 この国におけるバレンタイン――それは、女が愛情表明する為の機会……親愛の情を込めてチョコレートを贈与する日らしい。
どこぞの製菓会社とメディアによる地道な策略と、それにまんまと乗せられたあるミーハー達によって、多少歪められて広められ、やがては独自の発展を遂げ定着するに至ったと噂の慣習。
何にしても、今や国民的行事となっているそれの所為で、この国全体がどこかそわそわするようになって久しい季節――。

「……はぁ」
 スポーツキャップのつばを摘まんで目深に被り直し、再度胸の内で後悔し、嘆息する。

 わしが住まう凍ノ杜という地区では、イベントや行事事に対しての関心のかなり希薄な住人が多い所為か、こうしたお祭りムードは漂わん。
まァ、それでも他所からの客も多く入ってくる為、シェフ兼パティシエをやっている知り合いは店に期間限定商品を置いたりしていたようじゃが……。
 だが、少し隣の区に出ればどうじゃ。一度その辺の店先を覗けば、菓子類の棚には赤やピンクの包装の商品が増え、チョコレート製品ばかりが並ぶ特設コーナーには、真剣な表情をして商品を見定める女や、きゃあきゃあと黄色い声を発して舞い上がる少女達が集まっておる。そして何処か淡い期待を寄せているのか、そんな光景を眺め、そわそわとしている男達の姿――。
この国の人間は特に空気に乗せられ易い性質を持つらしく、周りも何処と無く浮き足立っている感じじゃ。
 そわそわそわそわ……
そんな空気を肌で感じていると、こっちまで落ち着かなくなってきそうじゃ。

 しばらく歩き回ってみたものの、そわそわとした空気は止まるはおろか強まる一方で、居心地の悪さに、流石のわしも小さく唸った。
(うむ……帰るかのう……)
 更にもう一度小さく唸ってそう決定を下し、くるりと足先の向きを変えた。

 その時。

「――カク?」
「!!」

 呼び止められて、顔を跳ね上げる。
ふわふわとしたローズゴールドの長髪が視界に入り、一瞬息を止めた。
 周りの群集より頭ひとつ程背が高く、明らかに異邦人であると判る髪と瞳の色に加えて、整った顔立ちの女が此方に歩み寄ってくる。

――ロイじゃ。わしの幼馴染みで……無二の親友の。


 前言撤回。わしの足よ、よくぞ此処に足を運んでくれた。


 しかし相変わらず凍ノ杜から出ると目立つのう。すれ違う通行人がロイを見て、「外人だ」と興味有り気に振り返る。まァ……外人だからというよりは、ロイが美人だからじゃろうが。
現に、振り返っておるのは野郎の方が圧倒的に多い。いかん、由々しき事態じゃ。
中には彼女連れの男も――って、そこの男、おぬしの彼女が物凄く怖い顔しておるぞ?

「奇遇じゃな、ロイ! ……どうしたんじゃ、こんな所で」
 一瞬の内に頭の片隅で渦巻いた感情やら何やらを無視しながら、明るい声をかけた。
「あぁ……たまの休日だし、ゆっくり映画でも見ようかと思ってな――」
 言いながらロイは映画館の出入り口付近に貼ってあるポスターを指差した。
「アレを見てきた所だ」
 指差されたポスターや予告版の情報を見るに、主人公の下半身不随になった兵士が、はるか異星の地で現地人そっくりに造られたリモート義体を操作しながら、先住民達との関係を築いて行き……当初の軍の目的を阻止せんと立ち上がって奮闘を繰り広げて――というのが大まかなストーリーらしい。ついでになかなかにアクロバティックなアクションシーン入りだ。
「3D映画は初めて見たが……慣れない視野で物を見ると、いささか眼が疲れるものだな」
 そう言って短く笑ってから、ロイは先程のわしと同じような質問を返してきた。
「――そう言うお前は、こんな所で何をしているんだ?」
「何、わしも暇潰しに散歩がてらフラフラしとっただけじゃ。まァ、大して面白いものも無かったから、そろそろ帰ろうかと思っていた所だがの」
 本当はお祭りムードのこの空気が居心地が悪かったからじゃが、そんな事はもうどうでも良い。
「要するに、とても暇なんじゃ」
 そう言うと、ロイはくすりと小さく笑った。
「――だから喜んでロイに付き合うぞ?」
 直訳すれば、遊ぼう。そう言ってるようなものじゃな。
折角知り合いも居ない、邪魔が入りにくい所でばったり会ったんじゃ。この機会を逃す手はなかろう?
「じゃぁ……二人フラフラと遊びに行くか」
「流石はロイじゃ」
 ヒョイとロイの片手を取って握り、並んで歩き出す。
こういうのはノリと勢いじゃ、勢い。あとついでに虫除けにもなるからの。ロイが変な男に引っ掛かるなどと言うことはまず無いが――わしの感情的な都合上でもそのほうが良さそうじゃ。


     ★+*


「おっ、ここの展望台は喫茶店も入っておるようじゃな」

 ウィンドウショッピングをしながら流れる事、小一時間。ビルの案内板を見たカクが不意に立ち止まって、繋いでいた私の手を引っ張った。
「喫茶店?」
「折角じゃ、ここで一服して行こう」
 そう言い振り返るカクの顔が何処か可愛らしく見える。いや、身長190にも届きそうな長身の男を(しかも声色もなかなかに低い)、可愛いと言ったら変だろうか……。自身の身の丈も彼と同じくらいある所為か、どうもそこらの一般人と感覚が少しずれる。

 手を引かれるままエレベーターに乗り込むと、カクが最上階のボタンを押した。偶然乗り合わせたカップルはきょとんとした表情で此方を見上げていたが、そんな事は気にせずカクは見る見る目線が高くなっていく外の景色を見て、口笛を一つ鳴らす。
『これはなかなか絶景じゃな』
「?」
 突然に飛び出した懐かしい言語に、思わず私はクエスチョンマークを出していた。
『……今はわしら二人にしか解らん言葉じゃ。一目を気にせずに色々な事が話せて便利じゃろう?』
 私がまだ少し怪訝な顔をしていると、その言葉と共に少し悪戯っぽい笑みが帰ってくる。
確かに、理解出来るのは凍ノ杜のごく一部の住人に限られるこの言語なら、外で機密の事項の話を堂々と話していたとしても、外部に情報が漏れる可能性はまず無いか……。
『まァ、そんな重要な話をする訳でも無いがの。ただ――』
 そこで一度言葉を切り、カクはエレベーターのドアの方に向き直った。
上昇するスピードが落ち、チン、と目的の階に到着した事を告げる小さなベルが短く鳴り響き、ドアが開かれる。降りて行くカップルを見送ると、入れ替わりに幼児をつれた若い女が乗り込んで来て、それからドアが閉まる。程なくしてエレベーターは再び上昇し始めた。
『ただ……何だか妙に懐かしくなっての。子供の頃の事を思い出したわい』
 私だけではなかったのか……そう思うと、自然と表情が綻ぶ。
 幼馴染み二人で手を繋ぎ、何時もは通らないような通りを彼方此方覗きながらふらふらと進んでいると、童心に帰って探検に出ているような気分になっていたのだ。埃で薄汚れたコンクリートと鉄と硝子の密林に、轟々と流れる雑多な人の波……空気も世辞にも良いとは言えないが、それでも子供の頃に二人で探検した小さな森を思い出した。今となっては小さい森ではあるが、それでもあの森で冒険したあの時は、何もかもが大きく見えた物だった。
『……私もだ』
 あの頃と違うのは、二人共今や立派な大人で、たいていの事には対処出来るだけの力と経験があり、また体力や広い行動範囲に似合うだけの資力もある事もあることだろうか――。
『そういえば、先に泣くのは何時も――お前の方だったな?』
『っ、』
 意地悪く言って小突いてやる。と、カクがバツが悪そうにその顔をしかめ、それから軽く肩を落とした。
『~~―――ロイ、それは言わん約束じゃろう……』
『そうだったな。すまん』
 エレベーターが減速する。
ふと視線を感じて其方を見ると、先程乗り込んで来た幼児と目がかち合った。視線はすぐにそらされたが、チラチラと此方を見てくる。如何にも幼児らしい反応だ。
小さなベルが鳴り、最上階に到着した。

「バイバイ!」
 母親と思しき女に手を引かれて先にフロアに踏み出した幼児が、振り返って小さな手を振った。手を振り返して応じる。眩しい程の笑顔につられ、カクも私も表情を綻ばせた。
 ……カクと私が初めて会った時は、お互いにあれくらいの年頃だっただろうか。

「さてと」
 エレベーターを降りると、カクは気を取り直したように視線をフロアに巡らせ始めた。
「喫茶店は……と」
「あれじゃないか?」
 私も同じように視線を巡らせて、目に留まったそれらしい看板を指差した。よく見る円形の看板にはカップの絵と“BEANS”の文字。取りあえず茶の一服は出来そうであるからして、おそらくそうなのだろう。


     ★+*


「いらっしゃいませー」
 自動ドアにわざわざ設置されたのであろう鈴の音に反応した店員が此方に目を向けてくる。見たところ随分年若い、アルバイトだろうか。彼女の表情に、一瞬戸惑ったような色が滲んだ。明らかに異邦人である出で立ちの二人組……戸惑って当然だろう。
店内にはそのアルバイトの少女と、この店の店主、そして主婦が数名居るだけだった。かけられている音楽も静かな調子のもので、なかなか良い雰囲気だ。
「あ……何名様――えと、わ、What――あ、違……How、How many people――?」
 とっさに口をついた英語で、おそらく「何人ですかと」聞きたいのだろう。さっさとそう判断し、ロイは指を二本立てた。
「二人。喫煙席、あります?」
 流暢な日本語に、店員は心底ホッとした様子だ。
「喫煙席は此方になります」
 窓辺のカウンター状の席に通され、適当に座った。
『おぉ、これはまた……なかなかの絶景じゃ』
 メニューに目を通しながら、カクが感嘆の声をもらす。日が傾いて来る時間帯で、徐々に街灯や車のライトが灯され始めて来ていた。これから少しずつ夜景に変わって行くのだろう。

 とりあえずコーヒー二つと甘味を適当に注文して、ロイはお気に入りの銘柄の煙草に火を付けた。すぐ隣で、カクも同じ煙草に火を付けている。黒い紙に巻かれ、フィルター部分に小さな馬の絵が一つ描かれた“ブラック・メア”――無臭と言って良いほど、においのしない特別な銘柄だ。
 紫煙を吐き出しながら、ロイはおもむろに今日一日マナーモードのままになっている携帯をとりだした。新着メールが数件入っている。開けてみると、案の定と言うべきか、何かしらイベントがある度に悪戯を仕掛ける約一名によって引き起こされた惨事の写メが送られて来ていた。
『……』
『――ロイ? どうしたんじゃ?』
 携帯の画面を見つめて彼女が小さく嘆息したのを見逃さず、カクが訊ねた。
『いや……何てことでは無いのだがな……“コレ”だよ』
 例の写メをチラリと見せてやれば、それだけでカクは納得して苦笑する。
『あァ……同じのが、わしにも届いておったぞ』
『全く、毎年毎月事ある毎に……よく飽きないな……』

 その“馬鹿”は、今日は何の日だ、誰かの誕生日だ、イベントだ、記念日だ――と、何かにつけてその当事者とその近辺の者達に、プレゼントと称して何かしらの悪戯を仕掛ける。その度に誰かに怒られるのだが、全く懲りた様子も無く、悪戯を繰り返しているという……ある意味強者だ。
 現に、ロイはつい十日程前、その被害を被っていた。
(……――忌々しい……)
 おかげで自分の身体がまだ少し不調を訴えていることを思い返して、小さく嘆息する。
『――しかし、まぁ……確かに、相変わらずろくな事をしとらんようじゃな』
 メールの本文に目を通し、カクは苦笑を漏らした。【今日正午過ぎ、武田ジム野外練習場にて、飛鳥ライゾウ被告がウブな青年で知られる真田幸村にクリームやチョコレートソースなどでデコレーションを施した実寸大おっぱいプリンをプレゼントし、案の定、幸村が大噴火し、近くの備品に引火する騒ぎとなった。火は直ぐに偶然近くに居たポートガス・D・エースによって消化されたが、武田ジムの野外練習場が半焼する被害となっている。なお、被告は現在逃亡中で、依光ヒビキ、フブキの両名が行方を追っている】――何処となく短いニュース記事のように書かれているのは、おそらく送信者の遊び心であるからして、そこは深く突っ込まない事とする。
『凍ノ杜の中でなかったら……とんだ珍事件じゃのう』
『珍事件というより、痛い事件だな』
『ははっ――違いないわい』
 今日凍ノ杜の外に出たのは正解だったと、笑いあう。おかげであの馬鹿に悪戯されずに済んだ訳だ。勿論カクは違う理由からもそう考えていたが。


(……――2月14日、ねェ……)
 空に赤みが差してきたのをぼんやりと見つめて、この日の日付を思い出す。
『2月14日といえば――』
 おもむろに呟く彼女に、カクが顔を覗きこんでくる。
『――……。269年、兵士の自由結婚禁止政策に反対したウァレンティヌスが皇帝クラウディウスの迫害を受けて処刑されたとされる日。1779年、キャプテン・クックが太平洋探検の第三回航海中にハワイで先住民との諍いによって落命。1929年、シカゴで聖バレンタインデーの虐殺が起こる。1989年、悪魔の詩の著者サルマンがホメイニーから死刑宣告を受ける――』
 ずるっ
面白い具合に脱力してテーブルに突っ伏したカクに、ロイは少し意地悪そうに笑って見せた。
『……どうした? カク』
『ロイ……おぬし、わざとじゃな……?』
『さァ? 何の事やら』
『むぅ……。まァ……おぬしらしいと言えばらしいが……の?』
 少しだけいじけたところで不意にロイの手が伸びてきて、スポーツキャップが取り払われた。そして短く刈った髪を優しく撫でられ、軽く狼狽する。
『ロ、ロイ?』
『カク……少しの間、目を閉じていろ』
『――ッ』
 つい、と喉元をくすぐられてカクは思わず身を硬くし、言われるままに目を瞑った。首筋を撫でるように手が掠めていき、暫しの間どぎまぎする。

『……――カク、もう目を開けて良いぞ』
『……?』
 恐る恐る目を開ける。一体何があったのか。
 チャリ…、とロイの指が胸元で何かを絡めた音がする。見れば、黒いドッグタグネックレスが首にかけられていた。
『これは……』
『なかなか綺麗な仕上がりだろう?』
 ドッグタグには炎のトライバルが入っており、その部分が淡い輝きを放っている。黒字に淡く輝くその様は、なんとも美しかった。
『……まさかおぬしがこれを?』
『あぁ。仕事の合間に、カゲヒサに教わりながら少しずつな……炎の部分に月見鋼を使ったのだが、流石は月見鋼……加工は骨が折れたよ』
 ロイの事だ。偶然、昨日か今日に仕上がった物なのであろうが、妙な嬉しさがこみ上げて来る。
そこでカクは、ふとロイの首にもネックレスがかけられている事に気が付いた。誘われるようにチェーンに指を絡める。
『ロイ――まさか……』
『……目ざといな?』

 チェーンを辿って指先が行き着いたのは、黒いドッグタグ。
其処に刻まれているのは、色違いだったがやはり――淡く輝く炎のトライバル。

『――GJじゃロイ!』
『気に入ったか?』
『気に入ったに決まっておろう……! というかストライクど真ん中じゃ!』
 気が付けば、カクの腕はロイの身体を捕まえていた。その動作はとてもとても自然なもので。ほんの少しだけ腕に力を込めると、ロイの身体はいとも簡単に、カクの腕の中に納まる。
『嬉しくて、しょうがないわい……』
『こらこら……お堅い邦人様の前だぞ?』
 首筋に顔を埋めるカクの頭を軽く撫でて、ロイが笑う。カクはそんな事はお構い無しに、更に少しだけロイの身体を引き寄せた。
(全く、ロイは思わぬ所で天然じゃのう……)


 二人が帰った後、“BEANS”の店主とアルバイトの少女、そして偶然居合わせた主婦達が、「やっぱり外人は違う!!」「美人!」「格好良い!」「絵になりすぎ!」と、しばらく熱弁していたという。



チラチラと影ちらつかせているのは凍ノ杜の愉快な住人達のほんの一部です。
白髭とかも居るんだぜ(笑
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